2009/10/08

ラストワンマイル 楡周平著

ユーザー宅から最寄の局舎までのネットワーク引き込み手段、のことではなく、、「物流のラストワンマイル=運送業者」の生存競争を描いた経済小説です。
企業間(B to B)や企業とエンドユーザー(B to C)とを結ぶ役回りを担う運送業は、全ての産業にとって重要な足回りを支える要であるにもかかわらず、下請産業に甘んじている。では、運送業者自らがB to Cのビジネスマッチングを行ってしまえばどうか、と作者が目をつけたその着想が面白い。

大口顧客から次々と運送料値下げか契約打ち切りを迫られる中、大手IT企業から突きつけられた理不尽な値下げ要求に、遂に宅配業界の一課長がIT企業に対抗するべく新たなビジネスモデルを考案、というわくわくするような始まり。
IT企業(=楽天市場)のようなショッピングポータルに対抗し、運送会社があらたなポータルサイトの立ち上げを企画。さらに、そのIT企業が買収攻勢をかけているTV局を巻き込んだ一大ビジョンへと発展する。。熱い男たちの苛烈な闘いの行方に、一気読み確実、爽快な小説です。
また、楽天のTBS買収やライブドアのニッポン放送買収騒動、郵政とクロネコヤマトの熾烈な競争など実際に起こったことをうまくモチーフにしているので、イメージも湧いてきやすい。

楡周平氏は「Cの福音」に代表されるようなハードボイルドの新鋭旗手と思っていましたが、高杉良や真山仁などにもはまっている私には、分かりやすさが際立っていて面白かった。今度は遡って「再生巨流」を読もう~

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2008/08/30

「容疑者Xの献身」 東野圭吾著

福山主演で大ヒットしたドラマ原作の続編。この作品で東野氏はついに直木賞受賞作家となりました。東野氏の著作50冊以上を既読の私は当然文庫化発売の初日に完読です(文庫じゃないと保管しきれないので・・)
『探偵ガリレオ』『予知夢』と二冊刊行されている「湯川シリーズ」は短篇連作でしたが、こちらは長編です。こんな理系トリックがあるのか~と感心して終わってしまう短篇とは違い、読み応えがあります。
この作品はなんといっても読者を欺くトリックが見所。貫井徳郎氏の叙述トリックのように、最後のどんでん返しでほくそ笑んでいるだろう作者に降参です。
「秘密」や「手紙」などのように、思わず泣いてしまう感動作も良いですが、トリックが軸になった東野氏のミステリは絶妙。
犯罪を題材に扱った小説は、現実と比例してかグロテスクなものが増えているので、最近の推理小説には救いがなく気分の悪いものも残念ながらあります。
でもそんな中でも、人間のどうしようもない哀切が起こした犯罪を、情感のあるトリックと背景で描く東野作品は一線を画しています。もちろん、トリックが秀逸なのは言うまでもなく。
初期の作品「どちらかが彼女を殺した」では、タイトル通り二人の容疑者がおり、犯人を特定しないまま物語は終了、種明かしのヒントは袋綴じになった巻末にあるという徹底した推理小説でした。(それを開けても犯人の名前自体は書いていない)
10年くらい前に読んだ本だったので、ネットで答えあわせをするようなこともなく、「多分この人」の結論のまま、ずっとわだかまっていたことを思い出しました。今度実家に帰って読み返してこよう。。

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2008/05/30

『深海のYrr』 フランク・シェッツィング著

Yrr
深い青色が印象的な表紙の分厚い文庫本が本屋に山積みされていました。そして上中下巻にわたって大胆にかけられた帯には「驚異の小説」の文字。しかも福井晴敏さんの感想つき。反射的に購入です。
ドイツで『ダ・ヴィンチ・コード』と一位を争ったという本作。
海の生物たちの異常行動に端を発した不穏な出来事から物語は始まります。
地球を支配していると思い上がる人間になす術はなく、環境破壊への逆襲とも言うべき破滅へのシナリオが進められていきます。深海からのメッセージは、地球にいる未知の知性体からの攻撃。対抗しようとする軍隊や、交信しようとする研究者や科学者たち・・
結局のところその知性体が人間よりも優れている点が、記憶や体験が遺伝する性質であったというのは明快。作者の思いつきというか構想はここがすばらしいと思います。人間が体験した記憶というものは、その人の人生が終わってしまえばそこで途切れてしまいますが、この知性体は遺伝子に記憶が書き込まれていき、それにより体験していないことへの対処法まで受け継がれていくのです。
愚かな戦争の繰り返しを行っている人間のようなことはないのでしょう。対決して勝てる気がしません。

文中に、人類は殲滅されてはならない知性体であるという明確な理由が見当たらない、と言う風なシーンがありましたが、まさに今このような事態になった場合、人類は簡単に淘汰されてしまいそうです。地球の環境を破壊し続ける人類には思い当たる節がありすぎで、フィクションだと片付けられない怖さがあります。

映画化の話もあるようですが、未知の生物との戦いを描く単なるパニック映画になりそうで、あまり期待が持てません。。
映像化といえば、著者であるフランク・シェッツィング氏近影がかなりかっこいいのです。
Yrr2 スキャンしてみました。。
映画には彼が出演すべきなのに、と思ってしまいました。ジョージ・クルーニーという配役話があるそうですが、科学者役というならばアクの強い彼の風貌よりも、知的セクシーな著者の方がずっと適役な気がします。
・・刻一刻と変化する状況、科学者たちのせめぎあい、息もつかせぬ三巻セットです。結末は読んでのお楽しみ。

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2008/02/16

『チーム・バチスタの栄光』海堂尊 著

Kaido
引越し後、通勤時間が往復3時間から30分へと劇的に短縮されたことのデメリットが一つだけ。読書が出来なくなったのです。家でくつろいで本を読んでも内容が頭に入ってこないんですね。習慣っておそろしい。満員電車でつり革にすがり、左手だけで本を持ちつつページを捲るという荒業を身につけていた私でした。
そんなこんなで、読みたい本を無理矢理カフェで読むという方法をとることにしました。

今回やっつけたのは、第4回「このミステリーがすごい!」(略してこのミス)大賞を受賞した『チーム・バチスタの栄光』。映画化もされるようです。
難しい手術"バチスタ"(拡張型心筋症に行う心臓手術)を次々と成功させる外科医とその手術チームに巻き起こった連続術中死を、門外漢の神経内科医が追っていくという話。
難しい用語やつかみにくい情景描写がありがちな医療ものですが、この作品はミステリー要素が多分にあり、とてもおもしろかったです。
そして大事な人物造形。主人公の医師田口(映画では女性=竹内結子が演じるようです)と、下巻から登場する厚労省役人の白鳥(映画では阿部寛)が、微妙ながら絶妙なコンビネーションで謎を解いていきます。
会話のやりとりが小気味良く、ずいずい読めます。白鳥の型破りなところにすかっとし、田口のお人よしで自信のないところに感情移入し、すっかり虜。続編が出ないかな~と思っていたら、出ているみたい!「ナイチンゲールの沈黙」、「ジェネラル・ルージュの凱旋」と2作も。うれし~。
著者の海堂氏は現役の医師。現代医療への警鐘もメッセージとして込められているようです。作品として完成していて面白くて、更に社会性まであるなんて、一挙両得。すばらしい。

ちなみに、映画化のキャスティングを見たら、理想に燃えた天才的心臓外科医の桐生を吉川晃司が演じるそうです。。想像できない。

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2007/09/29

『フェルマーの最終定理』サイモン・シン著

いや~すごい本を読んでしまいました。
骨の髄まで文系のこの私が、数学の定理を解き明かした数学者の物語を読み、そして感動する、とは、天変地異が起きてもおかしくない出来事です。
「フェルマーの最終定理」と名づけられた、難攻不落の問題。それを素人にもわかるように挑戦者たちの歴史に主眼をおいたおかげで、私も読み物として楽しむことができました。

定理が定理であること、すなわち"絶対にそうなる"ということを証明することが、彼らに課せられた命題であり、彼らは"たぶん"ではだめなんですね。途半ばにして亡くなった数学者に対して、「生きるのと計算するのをやめた」と形容するような凄まじい世界。
元々は、三浦しをんさんのブログに載っていた記事(電車でこの本を読みながら泣く男子学生を見た話)が気になって手に取ったのですが、読んでよかったです。
360年の間誰も完全証明できなかったこの問題を、10歳の頃に問題に魅せられたアンドリュー・ワイルズというイギリス人が、41歳で証明を完成させた瞬間、その苦難に感情移入していた涙腺の弱い私は、やっぱり涙ぐんでしまいました。

0やマイナスの概念を見つけるなど、数学に魅入られた多くの偉人によって、今この世界の秩序が形成されてきたんだなと思います。
でも私は違う分野で人類に貢献しますから、これだけは勘弁して欲しい、と思いながら読んでいました。
数学の神に見出されなかったことを感謝していいのか、悲しんでいいのやらちょっと分かりませんが、数学の成績が悲しみのどん底だった高校時代、もっと積極的に挑んでみればよかったかなと、ちょっぴり悔やんでみたのでした。

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2007/09/12

「人生激場」三浦しをん著

Siwon
直木賞作家、三浦しをんさんのエッセイ。
軽快で、口語が嫌味でないのでとても読みやすく、通勤電車の往路で読破しました。
刊行は何年か前。よって内容も、少し前(ドイツワールドカップの時期)の話なのですが、それでも本当に面白い!
電車の中で吹き出したのを誤魔化すために咳払いをしようとしたらむせてしまって、つらい思いをしました。
つんくのことを間違えて「むんく」と呼んだおばあさんに訂正をせずにほくそえんでいたせいで、つんくの呪い(妄想)がかかって、下痢になった話・・とか。
南の島で出遭ったかっこいい海男と、恋に落ちるどころか、ずれた水着のパッドを見られてしまう悲しい話とか。
オタクな話、ビロウな話、好みのサッカー選手の話、などなど、共感できない話題でも、こんなに面白いエッセイは珍しいです♪
ちなみに小説は、以前直木賞受賞作である「まほろ駅前多田便利軒」を読んでいます。
この、「まほろ~」は、我が実家に近い町田市が舞台となった便利屋のストーリー。
雑多でざわざわしていて、治安が良いんだか悪いんだか分からない猥雑でのどかな町田を、とても的確に表現しているなぁと、少し恥ずかしい気持ちも沸く小説です。
違ったタイプの二人の男性が主人公で、暑苦しくないお互いへの好意がとてもイイのです。
今回エッセイを読んで、「もしや、好みのタイプの男の人を主人公に投影しているのでは・・」と勘繰る私。
読みやすくて好きな作風だ!と、何冊も小説を買い込んでいましたが、どうやらエッセイにも手を染めることになりそうです。

三浦しをんさんの公式日記ページ
 ⇒ < http://blog.goo.ne.jp/below923 >
 

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2007/09/07

『ドリトル先生アフリカゆき』 ヒュー・ロフティング著

Dolittle
大量に文庫が溢れる本棚をどうにかしなくては、と漁っていたら出てきました。
動物と話ができる名医ジョン・ドリトル先生の物語。児童文学の傑作シリーズです。
童話作家に憧れていた遥か昔に、大のお気に入りだったこの本。
最近では、エディ・マーフィーが実写映画化しましたね。未だに見てませんが。
この作品が、井伏鱒二の翻訳だと知ったのはだいぶ後のことでした。あの文豪が翻訳したなんて! すごい秘密を知ったかのように興奮したのを覚えています。

そう、井伏鱒二といえば、名訳が有名ですね。
唐の詩人、于武陵の『勧酒』という作。
 勧君金屈巵
 満酌不須辞
 花発多風雨
 人生足別離
この五言絶句を、井伏鱒二は大胆にこう訳しています。
 この盃を受けてくれ。
 どうぞなみなみつがしておくれ。
 花に嵐のたとえもあるさ、
 さよならだけが人生だ。

意訳とはまさにこのこと。もはや井伏鱒二自身の言葉となっているのだと思います。
私はこの"さよならだけが人生だ"の文句に感じ入ってしまって、好きな言葉のうちの一つとなっています。
同時に、「一期一会」も好きですけどね。
出会いも別離も人生の一大事。大切にしたいなと思います。
 

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2007/08/03

『天使の爪』大沢在昌著

何年か前に映画化もされた、『天使の牙』の続編が文庫化。
脳移植された女性麻薬取締官のストーリー。
護衛中に撃たれ、重傷を負った刑事「明日香」の脳が、体は無傷で頭を撃たれた麻薬組織のボスの愛人「はつみ」の体に移植されるという、医学的にはまだありえない設定。
でも、体がぶつかってお互いの中身が入れ替わるというようなミラクルなお伽話ではないので、リアルで迫力があります。
『天使の牙』では、強い肉体と精神力を持っていた刑事「明日香」が、弱いけれど美しい「はつみ」の身体になり、苦悩の末それを受け入れるという話。そして、変身した姿で復讐ともいえる、犯罪組織を壊滅する為の壮絶な闘いが描かれます。
そして、この続編『天使の爪』では、麻薬Gメン「アスカ」として復職。ロシアで行われたもう一人の脳移植者と対決するという展開になります。また、元婚約者「古芳」との関係の葛藤も見所。
スピード感にあふれた展開で、人物の造形も確かなので、ついひきこまれ、電車の時間が短く感じるほど。。
私にもこんな強さと美しさがあったらと夢想してしまうほど、惚れ惚れします。
(それは松岡圭祐氏の千里眼シリーズ、岬美由紀に対する感想と似ているかもです。)
前作の映画では超美貌の主人公を佐田真由美が演じていました。
佐田真由美のキャスティングは、演技は見たことがないものの、色白で美人でとってもいい感じです。あと、髪の長い釈由美子とかもイメージです。
そして恋人刑事の「古芳」役は大沢たかおだったとのこと。
本当は、かなり大柄で寡黙で強い男の人の設定なので、杉本哲太とか阿部寛とかちょっと細いけど加藤雅也とかがいいなぁと思います。
こうやって、面白いと思ったり、思い入れのある小説が映像化されるときに、そのキャスティングがぴったりはまってる!とはなかなかならないものですね。
でも、冷酷な殺し屋、「神隆」役の嶋田久作さんはきっとはまり役です・・
見る前から目に浮かぶわ~

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2007/06/21

『孤高のメス』大鐘稔彦 著

実際の医師である大鐘氏が実体験を元に描く医療小説。
多少の変更は加えてあるものの、真に迫るリアルな描写は、本職ならではです。

志を高く持った、型破りな天才医師当麻が日本初の生体肝移植に踏み切ろうと奮闘する様子は、胸に迫るものがあります。
筆者もまた、肝移植執刀については、世論や圧力で並々ならぬ苦労をされた方なのでしょう。
山崎豊子氏の「白い巨塔」を髣髴とさせる、大学病院内のせめぎあいも見所。
また、専門用語を駆使しているので、特殊な世界を覗き見できるお得感もアリ。
正義感を持った医師や看護士の苦悩や過労についても、考えさせられます。

病院内の物語だから当たり前なのですが、次々と登場人物が病気に侵されるにつれ、「私の体は大丈夫だろうか・・」と不安になって何となくお腹の辺りに違和感を感じてしまったのでした。
一気に6巻読破。面白かったです。

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2007/05/18

惜別

作家の藤原伊織さんがお亡くなりになりました。
まだ59歳だったそうです。
江戸川乱歩賞と直木賞を同時受賞した「テロリストのパラソル」が代表作。

ハードボイルドを好んで読まなかった私が、この分野にのめり込むきっかけとなった本でもあります。
藤原作品に出会って以来、東野圭吾、宮部みゆき、乃南アサ、松岡圭祐などのミステリー一辺倒だった書棚に、大沢在昌、楡周平、大藪春彦、笹本稜平、新堂冬樹・・・とハードコアな面々が並ぶようになりました。
藤原さんの文体は、テンポも良く気障すぎず綺麗です。
ハードボイルドにありがちな主人公(と作者)の陶酔が嫌味ではないので、物陰からそっと見ていたくなるような、この人に振り回されたいと思うような、魅力的な人物に参ってしまいます。
この作品の島村と浅井も然りで。叶うなら続編が読みたいくらい。

それにしてもこの暗く怠惰な空気感を、全共闘時代という全く想像もつかない混沌とした時代の遺物、という説明で納得させられてしまうのは、一重に作者の筆の説得力なのだろうなぁと、あらためて自己満足に終わらない文章は難しいなと思ってしまいました。
自己満足と単なる覚書の賜物のブログでもこんなに苦労してるのに。

まだまだこれからという御年ですので、次作品を待ち望んでいた多くの藤原ファンと同じく、残念でなりません。
ご冥福をお祈りいたします。

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